「愛」と「敗北」

「自分が大人になって以来全てをかけて打ち込んできたものが消えたのですから、私はもうぼろぼろでした。数ヶ月の間、私はどうしたらいいのか本当に分かりませんでした。自分は前の世代の起業家たちの名誉を汚してしまった、渡されたバトンを落としてしまったのだ、と感じました。

デビッド・パッカードとボブ・ノイスに会って、全てを台無しにしてしまったことを詫びたりもしました。知らぬ者のない失敗者です。シリコンバレーから逃げ出すことすら考えました。しかし、やがて私の中で何かが見え始めました。私はまだ自分の仕事を愛していました。アップルでのできごとがあっても、その気持ちはいささかも変わらなかったのです。
私はふられてしまったわけですが、まだ好きでした。

だからもう一度やり直してみようと決めました。

その時は分かりませんでしたが、後からみると、アップルを追い出されたことは、人生で最良のできごとでした。成功者であることの重みが、もう一度初心者であることの身軽さに代わったのです。ものごとに対して前ほど自信も持てなくなりましたが、同時に私は自由の身となり、人生で最もクリエイティブな時期にもう一度入ることができました。

その後5年の間に、私はNeXTという会社を立ち上げ、ピクサーという会社を作り、素晴らしい女性と恋に落ち、その女性と結婚しました。ピクサーはやがて世界初のコンピュータ・アニメーション映画「トイ・ストーリー」を創り、今では世界で最も成功しているアニメーション・スタジオとなりました。思いがけないことからアップルがNeXTを買収し、私はアップルに復帰しました。NeXTが開発した技術は、最近のアップルの復活において中核的役割を果たしています。ローレンと私は一緒に素晴らしい家庭を築いてきました。

私は断言できます。
もし私がアップルを追い出されていなかったら、これらのことはひとつとして起こらなかっただろうと。もちろんそれは苦い薬でした。しかし患者には、それが必要だったのでしょう。

時として人生には、レンガで頭を殴られるようなひどいことも起きます。しかし信念を投げ出してはいけません。私が続けられた理由はただ1つ、自分のやっている仕事が好きだったということです。そしてこれは皆さんの仕事や恋愛においても同じです。

皆さんも、仕事が人生の大きな部分を占めていくでしょうが、真に満足するために必要なのはただ1つ、皆さんが素晴しいと信じる仕事に取り組むことです。そして素晴らしい仕事をしたいと思うなら、皆さんがやっている仕事を愛さなければなりません

もしまだそれを見つけていないのであれば、探し続けてください。
ひとつの場所に固まっていてはいけません。
心というのはよくしたもので、見つければそれとわかるものです。
そして素晴らしい恋愛と同様に、年を重ねるごとによくなっていきます。
ですから、探し続けてください。ひとつの場所に固まっていてはいけません(拍手)。」

―スティーブ・ジョブズ 米国スタンフォード大学の卒業式スピーチ